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衝撃の雇用統計から1か月。8日に発表された米6月雇用統計は、非農業部門雇用者数が28万人増と、市場予想をはるかに上回るポジティブサプライズとなった。 平均時給も前年同月比プラス2.6%となり、雇用者増が時給増につながっている格好となった。 過去の景気回復局面での時給の伸びが4%程度であったことから、足元の平均時給の伸びが不十分であるという意見も多い。しかし、前年同月比2.6%増という時給の伸びは、FRBが目標としている物価上昇率2%を上回るもので、実質賃金(=名目賃金伸び率-物価上昇率)がプラスを保てるということでもある。 実際の雇用数ではなく、単なる有効求人倍率で雇用が堅調だと騒ぎ立てる一方で、名目賃金がマイナスに転じた日本とは状況は全く違う。 雇用統計は予想以上に強かったが、5月の雇用者増加数が11,000人へと下方修正されたことや、平均時給の伸びが穏やかなものだったこともあり、FRBの利上げ観測はほとんど上昇しなかった。CMEのFedWatchによると、市場が織り込むFRBの利上げ確率は7月が0%であるだけでなく、年内に利上げする可能性も23.6%にとどまっている。 6月の雇用統計は予想を上回る結果だったが、5月の数字が悪過ぎたことの反動が含まれているため、6月の数字だけでFRBが利上げに動くことは考えにくい。それゆえ市場が見込む7月の利上げ確率が0%であることは不思議なことではない。 しかし、年内利上げがないと決めつけることは危険なことだ。 忘れてはならないことは、FRBの利上げは「経済指標次第」に戻る方向にあるということだ。 FRBが利上げを先送りしてきた理由は、大統領選挙を控えドル高を避けたかったこと、英国の国民投票の結果によって世界経済が混乱する可能性があったことである。 大統領選挙では、一時支持率でクリントン候補を逆転したトランプ候補の勢いに陰りが見え始め、まだまだ安全圏とは言えないものの、クリントン候補が再びリードをしている。ドル高によって米国人の雇用が奪われていると訴えるトランプ旋風が弱まることは、FRB利上げの制約条件が一つ減ることでもある。 また、英国のEU離脱という国民投票結果によって混乱した金融市場も、震源地の英国株式市場や米国株式市場が上昇に転じたことで、ショックの拡散を抑え込むことに成功した格好になっている。 トランプ旋風が弱まり、英国のEU離脱ショックによる市場への悪影響を抑え込むことに成功するなかで米国経済が足元の堅調さを維持していくとしたら、FRBの「経済指標次第」の利上げに対する足枷はなくなることになる。 もしFRBが「経済指標次第での利上げ」を目指すとしたら、足元23.6%に留まっている利上げ観測を高めていく必要がある。FRBの利上げを徐々に織り込む形で市場金利が上がり、FRBが市場金利に追随する形での利上げの方が、金融市場や経済に与える悪影響が少なくて済むからだ。 それゆえ、FRBが利上げを目指すのであれば、11月の大統領選挙を境に市場に利上げを意識させるような「タカ派的発言」を増やしていくはずである。 こうした動きは、金利面からドル高圧力を高める一方、株式市場に対しては上値抑制要因となるはずである。 足元で気にかかることは、ECBが金融機関への監督姿勢を強める姿勢を見せ始めていること。主要国の中央銀行がドル資金を提供することで英国のEU離脱ショックの波及を抑えようとしているなかで、金融機関に不良債権処理を迫るというのは、政策協調体制にひびを入れるものであると同時に、ECBの金融緩和政策を打ち消すもの。 ブラック・マンデーの時には当時のブンデスバンク(ドイツ連邦銀行)が、リーマン・ショックの時はECBが利上げに動いたことが一つの要因となったことを思い出すと、今回のECBの不良資産削減要求が不気味に思えてならない。
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